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世田谷の豪徳寺は井伊直孝に縁の深い曹洞宗の古刹です。直孝は彦根藩の二代目の藩主で、
徳川四天王または徳川三傑の一角を為す井伊直政、その次男です。伝承によると、直孝が鷹狩
の際、弘徳庵という小さな寺の門前に差し掛かると、寺の中に入る様に手招きをする猫を見付け、
その寺に入ります。すると一天俄に掻き曇り突然の雷雨となりました。直孝は雨宿りの傍ら和尚と
語らい法談を聴くにつけ、親交を持つ様になったそうで、寺は後に井伊家の菩提所となりました。
弘徳庵は井伊家の寄進を受け改修され、直孝の法名(久昌院殿豪徳天英大居士)から豪徳寺と
号する様になったと伝わります。この福を招いた猫の手招きの縁起の良さから、招き猫の伝承が
生まれ、延いては現代のご当地ゆるキャラ：彦根市のひこにゃんにつながる…とする由来譚です。
井伊直政は彦根城の完成を見ずに他界しており、居城は三成の佐和山城でした。直政はこの
城を嫌い、数百メートル西の琵琶湖岸に新しく築城を図るも、関ケ原の戦傷がもとで没します。
佐和山藩主として最後をむかえた直政ですが、形式的には初代彦根藩主とされている様です。
彦根藩は彦根城築城後の藩名と言う事になります。彦根藩は二代目藩主の直孝以降、幕末に
至るまで転封の無かった稀有な譜代大名となりますが、歴代の彦根藩主の官位官名にも共通の
「掃部」の名をいただきます。有名なのは何と言っても全14代藩主中の13代掃部頭井伊直弼です。
掃部は「掃部寮：かにもりのつかさ」からで、掃部頭は「かもんのかみ」：掃部寮の長を示します。
律令制において宮内省に属する令外官の一つである掃部寮は宮中行事に際して設営を行い､
また殿中の清掃を職掌しました。訓読し難い名ですが、一説に古事記の海幸山幸神話に由来を
持つとの解釈があります。神話上、初代：神武天皇の祖父に当たるのが山幸彦とされます。
山幸は兄の海幸と道具を取り替え、不慣れな漁に出ますが、兄の大切な釣り針を失くしたことで、
強く叱責を受けます。海辺で途方に暮れていた山幸は塩土老翁と出会い海神の宮に至ります。
その海神の宮で出会ったのが、海神の娘の豊玉姫(神武天皇の祖母)でした。
豊玉姫は出産の際、浜辺の産屋に籠りましたが、この時に覗き見(垣間見)の禁を山幸が破った
ことで、姫は海神の宮へと去り、生み残された子は後に神武天皇の父となります。また、出産に
際し、寄り来るカニの群れから産屋を掃いて守った故事が、「かにもり」の由来とも言われます。
奇縁とも観える偶然ですが、蠢動する海外勢力に対し、水際の外交責任者だったのが掃部頭：
井伊直弼でした。直弼は大老、または安政の大獄に苛烈な印象を遺します。しかし、彼の実像は
強権とか武断とかの直線的で公的な顔とは或いは少しばかり異なるものなのかもしれません。
「一期一会」は国語や道徳などの教科書で一度は遭遇する熟語の一つでしょう。意味としては、
一生に一度だけの機会／生涯に一度きりとして、そのことに専念する姿勢…の様な感じですか？
千利休には書や書状はあっても、自著は残されていません。一期一会は元は利休の言葉とされ、
弟子の山上宗二の著書には利休の言葉として『路地ヘ入ルヨリ出ヅルマデ 一期ニ一度ノ会ノ
ヤウニ 亭主ヲ敬ヒ畏ベシ』とあるそうです。「畏」は「かしこまる」で「敬う気持ちを表す」表現です。
幕末、その「一期一会」に再着目したのが茶人：井伊直弼でした。直弼は彦根藩の十四男でした。
故に32歳までを部屋住みとして過ごします。当時これは珍しくもなく、八代：吉宗は紀州家の末の
四男、綱吉も家光の四男、定信は田安家の七男、直弼も藩主：実兄の養子として藩主になります。
養嗣子前の直弼は学問や諸芸に進路を見出していた節があり、国学・居合・茶道…他に傾注、
茶の湯では藩主継承前に既に名を立てていたと言われます。茶人としては「宗観」の雅号を持ち、
石州流の中に一派を為し、直弼の著書『茶湯一会集』の23箇条の本文の冒頭に「一期一会」が
茶席の心得として記された様です。成立は安政5年：1858年頃と見られ、桜田門外で非業の死を
むかえる約2年ほど前です。『そもそも茶湯の交会は一期一会といいて…』と、同著にあります。
直弼の墓所も菩提寺の豪徳寺です。また、小説『花の生涯』は何度か映像化されていますね。
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